論文を読もう!!

天然物全合成を紹介するブログを作りましたが,まずは論文について書こうと思います.
拙い文章ですが論文を読むとき,書くときの参考にどうぞ.

全合成に限らず,有機合成の論文は
1.Subject
2.Abstract
3.Introduction
4.Result and Discussion
5.Experimental
6.Conclusion
7.Acknowledgement
8.Reference
というような章立てになってます.
以降,各章の説明に移ります.

1.Subject
Subjectは論文のタイトルです.

"Total Synthesis of Ciguatoxin"
"Synthetic Studies of Maitotoxin"
"Convergent synthesis of the left moiety of Ciguatoxin"
"Asymmetric synthesis of the ABC-ring of Zoanthamine"

といった具合で書いてあります.
全合成の場合は"Total Synthesis of ターゲットの化合物",合成研究の場合は"Synthetic Studies of ターゲットの化合物",収束的合成の場合は"Convergent synthesis of ターゲットの化合物",不斉合成の場合は"Asymmetric synthesis of ターゲットの化合物"というようなタイトルで,部分構造の場合は"of the ABC-ring"や"left moiety"というように合成したセグメントについても書かれています.

2.Abstract
Abstractは合成反応の要約や鍵反応が書いており,Abstractと論文内のスキームを追うだけでも何をやってるか結構わかります.
ブレベトキシンBとゾアンテノールを例に挙げ,和訳すると

"Brevetoxin BのABC環をメチルエポキシドの6-エンド環化,オレフィンメタセシスによる閉環,ヨウ化サマリウムを利用した分子内環化反応を鍵反応としてて立体選択的に合成した."
"Zoanthenolはスナギンチャク(Zoanthus sp.)から単離された海洋性アルカロイドであり,C環部の9,12,22位に三つの四級不斉炭素が近接して官能基が密に配置された複雑な構造を有する.ZoanthenolのABC環を酵素による光学分割と溝呂木-Heck反応及びSimmons-Smith反応を用いた四級不斉炭素の構築を鍵反応としてエナンチオ選択的に合成した."

というような感じです.
論文を読み始めるときはAbstractとスキームだけ読んでだいたい分かるくらいでも良いでしょう.

3.Introduction
天然物を単離した年や有用性等が書いてあり,以前の化合物の合成研究についても書いてあります.
ゾアンタミンアルカロイドの合成の場合,和訳すると

Zoanthamineは1984年にRaoらによりスナギンチャク(Zoanthus sp.)から単離,構造決定された7環性の海洋性アルカロイドである.
Norzoanthamineは1995年に奄美大島近海のスナギンチャクから単離された生理活性物質であり,1997年に上村,倉本らにより骨密度および骨重量の低下を強力に抑制するという作用が報告された*1.既存の骨粗鬆症治療薬とは作用機序が異なることと女性ホルモンのように重い副作用が全く見られないことから,新しい骨粗鬆症治療薬として期待されている.
また,同族のZoanthamineは顕著な鎮痛作用や抗炎症作用を示すことが報告されているほか,Zoanthenolの合成中間体のアミノアセタール構造がIL-6抑制活性を示すことも報告されている.
Zoanthamine系アルカロイドはC環部の9,12,22位に三つの四級不斉炭素が近接して官能基が密に配置されていることやDEFG環部がアミノアセタールとラクトンで構成されているといった構造上の特徴を有し,生理活性作用もつことから非常に魅力的な分子であり,合成研究が活発に進められている.
Norzoanthamineは2004年に宮下らにより全合成が達成されており*2,また,Zoanthenolも2009年に宮下らにより全合成が達成されている*3

といった具合のことが書いてます.

4.Result and Discussion
逆合成解析や合成戦略,各段階の反応スキーム,などの結果と考察が書かれています.

5.Experimental
実験方法が書いてあります.だいたい論文の後ろの方に書いてあることが多いです.
小さい字で書いてあってちょっと見づらいですが…

6.Conclusion
ターゲットの合成方法,合成に何段階要したか,全収率は何%だったかなどが書かれています.

7.Acknowledgement
研究でお世話になった機関やお世話になった先生への謝辞が書いてあります.

This work was supported in part by Special Project Funding for Basic Science from RIKEN
This work was supported in part by a Grant-in-Aid for Scientific Research from the Ministry of Education, Science, Sports, and Culture, japan.
Fellowship to D.N. from the Japanese Society for the Promotion of Science are gratefully acknowledged.

というような感じです(僕はまだ学振取れてないですが,あくまで一例ですのでお許し下さい…).

8.Reference
論文の参考文献が書いてあります.
上のIntroductionの参考文献で例を示すと

[1] M. Kuramoto, K. Hayashi, K. Yamaguchi, K. Yamada, T. Tsuji, D. Uemura; Bull. Chem. Soc. Jpn., 1998, 71, 771-779
[2] M. Miyashita, M. Sasaki, I. Hattori, M. Sakai, K. Tanino; Science. 2004, 305, 495-499
[3] Y. Takahashi, F. Yoshimura, K. Tanino, M. Miyashita; Angew. Chem. Int. Ed., 2009, 47, 8905-8908

というような感じです.以下に論文へのリンクも貼ってあります.

まあ,初めて論文を読む場合はAbstractとスキームだけ読んでくくらいでも良いでしょう.