クロスカップリング

昨日(厳密に言えばおとといですが),ノーベル化学賞の発表があり,鈴木章・北海道大名誉教授,根岸英一・米パデュー大特別教授,Richard Fred Heck・デラウェア大学名誉教授の3人が受賞しました.
僕は前日にTwitterで今年は鈴木先生と宮浦先生とクロスカップリングの分野を拓いた玉尾先生が受賞するんじゃないかとtweetしてたら鈴木先生が受賞したのでノーベル化学賞が発表された時は実験中だったにも関わらず実験室で興奮のあまり騒いでしまいました…
担当教官の先生とTAのみなさんにはこの場を借りてお詫びします…


今回受賞した3人の先生の功績は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」であり,クロスカップリングはオレフィンメタセシスと同様,天然物全合成の分野において多用される便利な反応です.
オレフィンメタセシスについても後々書きたいと思いますが,クロスカップリングとオレフィンメタセシスのおかげで全合成分野は劇的に変わったといっても過言ではありません.


クロスカップリング反応というものは構造が異なる2つの化学物質を選択的に結合させる反応で,全合成の世界では収束的合成によって大きなサイズのフラグメントをくっつけるときなんかに力を発揮します.
例えば医薬品の分子を作るときに右側半分のフラグメント(仮にAとしときます)と左側半分のフラグメント(仮にBとしときます)を合成した後にAとBをくっつけようとするときにクロスカップリングを使ってくっつけてやります.


クロスカップリングや炭素-炭素結合生成反応の分野では日本人が結構活躍しており,人名反応の例を挙げると

などがあります.
Tsuji-Trost反応,Mizoroki-Heck反応,Negishiカップリング,Migita-Kosugi-Stilleカップリング*5,Sonogashiraカップリング,Suzuki-Miyauraカップリング,Hiyamaカップリングはパラジウム触媒,Kumada-Tamao-CorriuカップリングとNHK反応はニッケル触媒を使って炭素-炭素間の結合を作ります.NHK反応ではニッケル(II)からニッケル(0)にする際に塩化クロム(II)も使います.


このように70年代以降発見された炭素-炭素結合生成反応は日本人化学者により発見されたものが多く,天然物全合成と同様に日本のお家芸とも言えます*10.そして,天然物全合成に与えた影響はとてもすごいですし,Suzuki-Miyauraカップリングは天然物全合成だけでなく有機電子デバイス材料の合成にも応用されており,現在流行りの反応ともいえます.
クロスカップリング天然物全合成での使用例は結構多くて書き切れないので後々紹介します.


Prof. Heck,根岸先生,鈴木先生の受賞を心よりお祝い申し上げます!!

*1:1965年に辻らにより発見され,その後Trostらにより詳細な検討が加えられた.辻先生も今回ノーベル賞をもらうんじゃないかと言われてました.

*2:1972年に京都大学の熊田,玉尾らの研究グループとCorriuらの研究グループがそれぞれ独自に発見.1975年に村橋先生によってパラジウム触媒による熊田カップリングもできるようになりました.

*3:1971年に溝呂木ら,1972年にHeckらによりそれぞれ独自で発見.溝呂木先生が存命なら今回受賞してたかもしれません…

*4:1977年に根岸らが発見.

*5:1977年に右田,小杉らのグループ,1978年にStilleらのグループがそれぞれ独自に発見.

*6:1975年に薗頭らが発見

*7:1979年に鈴木,宮浦らが発見

*8:1983年に高井和彦、檜山爲次郎、野崎一らが発見,1986年に高井らと岸らのグループによりそれぞれ独自に塩化クロム(II)の購入元や製造ロットによって大きく収率がばらつき,高活性・再現性にするには塩化クロム(II)中に混入している微量のNiが効果的であることが報告され,現在ではNi(II)触媒とCr(II)を等量還元剤として用いる手法の他に,Cr触媒とMnを還元剤を用い,添加剤としてTMSClを用いる手法 もある.

*9:1988年に檜山らが発見.

*10:お前が大好きなJuliaカップリングは日本人が見つけた反応とちゃうやろとかつっこまれそうですが…